2026年4月、日本でも「共同親権」が選択できるようになりました。しかし、「共同親権にすれば子どものためになる」という単純な図式は成り立ちません。制度の専門家たちが今最も強調するのは、むしろこういうことです。
「安易な共同親権の選択は、かえって離婚後の紛争を常態化させ、子の生活基盤を不安定にしかねない。」
共同親権を選ぶか選ばないかは、感情ではなく事案の実態に基づいて判断しなければなりません。本記事では、弁護士・臨床心理士の専門的知見をもとにした「2軸の判断フレームワーク」を紹介します。ご自身のケースがどの位置に当てはまるかを確認する参考にしてください。
1, 「共同親権=良いこと」ではない。選択肢が増えた分、判断責任も増した
改正法の施行により、離婚後の養育に関する選択肢は大幅に広がりました。共同親権の選択はもちろん、「監護の分掌」という子の監護を父母で具体的に分担する仕組みや、特定の事項について一方の親が単独で決定できる「特定事項の親権行使者の指定」など、多層的な制度が整備されています。
選択肢が増えたことは制度上の大きな進展です。しかし裏を返せば、「何が子の利益に叶う最善の解か」を判断する責任が、これまで以上に父母本人と実務家の双方に求められるようになったことでもあります。
特に注意すべきは、次の点です。
共同親権を選んでも、権限の行使の仕方が不明確なままでは、些細な意思決定のたびに紛争が再燃する危険があります。 「共同親権にした」という事実だけでは何も解決せず、具体的な権限の分担と養育計画の設計があって初めて機能するものです。
2, 共同親権が向いているかを判断する2つの基準
どの養育形態が自分たちのケースに適しているかを考えるには、2つの軸を交差させて考えることが有効です。
軸①:父母間の葛藤の性質
あなたと相手方の関係は、現在どのような状態にあるか。
軸②:子の発達段階・心身の特性
お子さんは今どの時期にあり、どのような配慮が必要か。
この2軸を組み合わせることで、それぞれのケースに最も適した養育設計の方向性が見えてきます。
3, 軸①:父母間の葛藤の性質による4つの類型
類型Ⅰ:協調型(低葛藤・高協力)
父母が互いの養育能力を尊重し、離婚に至るまでの経緯が子の養育機能に深刻な影響を与えていない状態です。感情的な摩擦はあるとしても、子のために協力するという方向性を共有できています。この類型では、改正法が整備した諸制度を最も柔軟に活用できます。
類型Ⅱ:条件付き協力型(中葛藤・意思疎通不全)
感情的な摩擦はあるものの、子の福祉という共通の目標においては限定的な協力が可能な状態です。直接の対話は難しくても、第三者(弁護士・ADR機関など)を介せばある程度の取り決めができます。この類型では、共同親権を選択しつつも、連絡手段の制限や特定事項の親権行使者の指定といった「仕組みによる調整」が有効です。
類型Ⅲ:高葛藤・拒絶型(高葛藤・協力困難)
相互の不信感が強く、一方または双方が相手方との関わりを拒絶している状態です。このような事案で共同親権を強行することは、子が両親の激しい衝突にさらされ続ける環境を固定化することになります。監護権を一方に集中させるか、単独親権を選択することが、子の生活の安定を守るための合理的な判断となります。
類型Ⅳ:安全配慮型(暴力・虐待・著しい不全)
暴力や虐待、あるいは重度の精神疾患等により、子の安全が客観的に脅かされている状態です。この類型では、共同親権の設計以前の問題として、子の安全確保を絶対的な最優先事項として扱わなければなりません。法律の規定どおり、この場合は必ず単独親権となります。
4, 軸②:子の発達段階・心身の特性
父母の関係と同様に、子どもの側の状況も判断に大きく影響します。
乳幼児期・児童期初期(環境の安定・愛着形成が必要な時期)
生活リズムの一定性と、主要な養育者との安定した関係が、心身の発達に不可欠な時期です。この時期の子どもは環境の変化への適応能力が未発達であるため、頻繁な居所の変更や生活環境の切り替えが心身に大きな影響を与えます。
思春期・青年期(自律性と意向の尊重が重要な時期)
自己の意思を確立し、学校生活や友人関係といった親以外の社会との関わりが主軸となる時期です。この段階の子どもは、親同士の葛藤に巻き込まれる危険性が高まります。子ども自身の意向と、自分の生活圏の安定を最優先に考える必要があります。
心身の特性がある場合(自閉スペクトラム症等)
「環境の一貫性」や「予測可能なスケジュール」を特に必要とする特性を持つ子どもです。スケジュールや居住環境のわずかな変動が、深刻なパニックや適応障害を招く恐れがあります。親の対立度以上に、子の認知特性に配慮した環境設計が最優先されます。
5, 父母の関係と子どもの状況から考える、単独親権・共同親権のフレームワーク
| 父母間の葛藤 | 子の発達段階 | |
|
乳幼児期・児童期初期
安定した愛着形成が必要な時期 |
思春期・青年期 / 心身の特性あり
意向尊重・環境の一貫性が重要 |
|
|
類型 Ⅳ
安全配慮型
暴力・虐待・著しい不全 |
[単独親権]
安全確保を最優先 |
[単独親権]
安全確保を絶対的に最優先 |
|
類型 Ⅲ
高葛藤・拒絶型
高葛藤・協力困難 |
[単独親権を念頭に]
環境の安定を最優先 |
[拠点を一方に固定]
特定事項の親権行使者指定で |
|
類型 Ⅱ
条件付き協力型
中葛藤・意思疎通不全 |
[共同親権・条件付き]
拠点を固定+定期的な交流 |
[共同親権・条件付き]
特性に配慮した拠点固定 |
|
類型 Ⅰ
協調型
低葛藤・高協力 |
[期間の分掌を積極活用]
(交替監護) |
[拠点を一方に固定]
+豊かな交流設計 |
図の見方:縦軸が父母間の葛藤(上ほど高葛藤)、横軸が子の側の状況(左=乳幼児期・安定優先、右=思春期・特性あり)。自分のケースがどのセルに近いかを確認してください。
具体的な組み合わせを見てみましょう。
協調型 × 乳幼児期
父母双方が主体的に養育責任を分担する「期間の分掌(交替監護)」の積極的な活用が期待されます。両親ともに育児に関与できる、最もバランスの取れた形です。
協調型 × 心身の特性あり
父母間の葛藤が低くても、子に特性がある場合は「期間の分掌(交替監護)」は避けるべきです。拠点を一方に固定した上で、豊かな交流設計を行うことが子の利益に資します。
条件付き協力型 × どちらの子でも
特定事項の親権行使者の指定を活用し、直接の協議を最小化しながら共同親権を機能させる設計が有効です。連絡方法のルール化とADRの活用がカギになります。
高葛藤・拒絶型 × 思春期
拠点を一方に固定し、子が両親の対立に巻き込まれないよう保護する設計が必要です。子ども自身の意向を尊重しながら、安全な生活圏を守ることが最優先です。
安全配慮型 × どちらの子でも
法律の規定に基づき単独親権となります。養育計画の設計よりも安全の確保が先決です。
6, 共同親権が向いているか判断をする前に確認すべき周辺要因
注意すべきは、父母間の葛藤は固定したものではなく、周辺要因によって変化し得るという点です。
例えば、どちらかの親族からの強い干渉が葛藤を増幅させている場合や、養育方針をめぐる価値観の根本的な相違が感情的対立の本当の原因になっている場合、その要因を取り除くことで、類型が「高葛藤型」から「条件付き協力型」へと移行することがあります。
逆に言えば、現時点での葛藤の激しさだけで最終的な判断をしてしまうのは早計です。ADRや弁護士を交えた対話の場を設けることで、今よりも良い選択肢を再構築できる可能性があります。
7, DVやトラウマがある場合の特別な配慮
過去に暴力や心理的虐待があった場合、共同親権の手続きそのものが被害当事者に深刻な影響を与えることがあります。
専門家の知見によれば、過去のトラウマを抱えた当事者は、共同親権の申し出を「再び支配下に置かれる合図」として受け取ることがあります。その結果、過覚醒による強い拒絶や、逆に思考が停止して無気力に合意してしまうという反応が起きることも少なくありません。
これを「性格の問題」と判断することは誤りです。 生存のための反応として理解した上で、そのような状態でなされた合意は後に大きな不調をきたす危険があります。
DVや虐待の背景がある場合は、必ず専門家(弁護士・臨床心理士等)を交えた判断が不可欠です。
8, まとめ:共同親権で迷ったら、まず自分たちのケースを整理する
共同親権制度は「選べること」に意義があります。しかし、選択の自由が増した分、判断の精度が問われる時代になりました。
自分たちが類型Ⅰ(協調型)に近いのか、類型Ⅱ(条件付き協力型)なのか、あるいは類型Ⅲ・Ⅳに近い状況なのかによって、最善の養育設計はまったく異なります。そして子どもの年齢・発達段階・心身の特性もまた、制度選択に直接影響します。
「どうすれば子どもにとって最善か」という問いに正直に向き合うためには、感情ではなく事案の実態に基づいた冷静な判断が必要です。
その判断を一人でしようとせず、まずは専門家に相談することをおすすめします。当サイト「共同親権弁護士」(レンジャー五領田法律事務所)では、ご自身のケースの類型分析から、具体的な養育設計の方向性まで、個別の状況に応じてご相談をお受けしています。初回相談無料ですので、まずはお気軽にご連絡ください。
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