離婚後、養育費が約束どおりに支払われない。そんな状況に直面している方は、決して少なくありません。厚生労働省の調査では、養育費を受け取れていないひとり親家庭は全体の5割を超えるとされており、子育てをする親にとって養育費の不払いは切実な問題です。
しかし、2026年4月に施行された改正民法により、この状況を変える2つの新しい制度が導入されました。「先取特権」と「法定養育費」です。
本記事では、改正法で何が変わったのか、従来の対処法と何が違うのか、そして今あなたが取れる具体的な手段を整理して解説します。
目次
1, 養育費が払われない現実と、これまでの法の限界
養育費を受け取れていない親の多くが直面してきた壁は、「取り決めがない」「公正証書がない」「裁判所の手続きが複雑で時間がかかる」という3点でした。
口頭での約束や簡単なメモしかない場合、相手が払わなくなっても、すぐに強制執行(相手の給与や預金を差し押さえる手続き)に移ることはできませんでした。強制執行をするためには「債務名義」——つまり調停調書・審判書・公正証書・判決などの公的な文書が必要だったためです。
債務名義がなければ、まず調停を申し立て、そこでの合意を得て、それでも払われなければ改めて強制執行の申立てをする、という長い道のりが待っていました。その間、子どもへの養育費は止まったままです。
改正法は、この構造に2つの側面から変化をもたらしました。
2, 法律改正後の新制度①「法定養育費」とは
法定養育費は月2万円:金額と対象
法定養育費とは、離婚時に養育費の取り決めをしていない場合でも、法律上当然に発生する養育費のことです(民法766条の2)。
改正法施行前は、養育費を受け取るためには、必ず当事者間の合意か裁判所の手続きによる取り決めが必要でした。改正法の施行(2026年4月1日)以降に離婚した場合、養育費の取り決めがなくても、法律により自動的に一定額の養育費請求権が発生します。
| 法定養育費 の金額 |
子ども1人につき月額2万円 |
|---|---|
| 対象と なるのは |
|
離婚前の別居期間は対象外となります。また、離婚時に「養育費なし」と合意していた場合も、法定養育費の請求は難しくなります。
「月2万円」は標準額でも上限でもありません
ここで、重要な誤解を防ぐために明確にお伝えしておきます。
法定養育費の月2万円は、養育費の「相場」でも「標準額」でも「上限」でもありません。裁判所によると、これは「養育費の取り決めをするまでの暫定的・補充的なもの」、つまり取り決めができるまでの間、ゼロの状態を避けるための最低保障額です(裁判所Q&A:法定養育費とはどのようなものですか。)
家庭裁判所が実務で使用する養育費算定表によれば、実際の養育費の目安は以下のとおりです。
| 支払う側の年収 | 子ども1人(0〜14歳)の目安 |
|---|---|
| 300万円程度 | 月2〜4万円 |
| 500万円程度 | 月4〜6万円 |
| 700万円程度 | 月6〜8万円 |
| 1,000万円程度 | 月10万円以上 |
月2万円という数字は、両親の収入が最も低いケースにおける最低ラインを参考にしたものであり、収入が一般的な水準にある場合は、算定表に基づく養育費はこれを大きく上回ります。
「法律で2万円と決まっているから、これでいい」という主張は、法の趣旨に反します。法定養育費はあくまで取り決めがない間の緊急措置であり、子どもの生活を支えるために必要な養育費は、双方の収入・子の年齢・人数・生活水準をもとに算定表に従って決めるべきものです。
「月2万円もらっているから問題ない」ではなく、「正式な取り決めをするための出発点」として捉えてください。 法定養育費を受け取りながらも、速やかに家庭裁判所の調停や協議によって正式な養育費を取り決めることが、子どもの生活を守る上で不可欠です。
3, 法律改正後の新制度②「養育費の先取特権」とは
先取特権でできるようになること
先取特権とは、他の債権者より優先して弁済を受けることができる権利です。改正法により、養育費債権の一部に先取特権が付与されました(民法306条3号・308条の2)。
これにより何が変わるかというと、養育費について定めた一定の合意文書があれば、裁判所の判決や調停調書がなくても、担保権実行手続きによって強制執行に踏み出せる道が開かれたことです。
改正前は、公正証書であれば強制執行認諾文言を入れることで即座に執行できましたが、私的な合意書では不可能でした。改正法では、法務省が公開している「共同養育計画書」の見本のように、「誰が、誰に、どの子のために、いくらを、いつまで払う約束なのか」を客観的に特定できる書面であれば、民事執行の申立てが可能になります。
これは、「公正証書を作る余裕がなかった」「弁護士に頼まず自分たちで決めた」という多くの方にとって、実質的に強制執行への道が広がることを意味します。
先取特権を使うための条件
先取特権に基づく担保権実行手続きを利用するには、以下の条件を満たす必要があります。
- 2026年4月1日以降に離婚等をした方が対象(または子が認知を受けた場合)
- 養育費について一定の合意文書(取り決め内容を客観的に特定できるもの)がある
- 法定養育費の場合は、取り決めなしの状態で離婚していること
なお、すでに調停調書・審判書・公正証書がある場合は、これまでどおりの強制執行(債権差押え)が引き続き有効です。先取特権は、それらがない場合の新しい選択肢です。
4, これまでの対処法も引き続き有効
改正法の新制度は強力な追加手段ですが、従来の対処法も引き続き有効です。状況に応じて組み合わせて活用することが重要です。
養育費の取り決めがある場合(調停調書・公正証書・審判書あり)
- 不払いが始まったら、まず相手方に支払いを求める
- それでも払われない場合は、家庭裁判所に履行勧告を申し立てる(調停・審判で定めた場合)
- 強制執行(給与・預金・不動産の差押え)の申立てをする
取り決めがない・口頭の約束しかない場合
- まず家庭裁判所に養育費請求の調停を申し立てる
- 相手が調停に来ない・合意しない場合は審判へ移行
- 審判書が出れば強制執行が可能になる
- 改正法の法定養育費・先取特権制度を活用する
公正証書がある場合
- 公正証書に強制執行認諾文言があれば、調停・審判を経ずに直接強制執行が可能
5, 「共同養育計画作成支援ページ」を活用する
法務省は、「共同養育計画作成支援ページ」および「こどものための共同養育計画書パンフレット」を公表しています。法律の専門的な知識を持たない父母であっても、これらに沿って合意文書を作成することで、万一支払いが滞った場合にも効力を持つ書面を整えることができます。
法務省:共同養育計画作成支援ページ
法務省:「離婚・別居を考えているお父さんお母さんへ こどものための共同養育計画書」パンフレット
これから離婚する方は、これらのページを活用して養育費の取り決めを文書化しておくことが、後のトラブルを防ぐ最善の手段です。当サイトの下記ページもあわせてご参照ください。
6, 養育費の不払いは、共同親権にも影響する
このサイトをご覧の方の中には、共同親権への変更も視野に入れている方もいるかと思います。重要な点をお伝えします。
養育費を支払う立場の方へ
養育費の長期不払いは、共同親権への変更申立てが認められない方向に大きく影響します。法務省Q&A(Q3-17)は、「養育費の支払を長期間にわたって合理的な理由もなく怠っていた事情は、共同親権への変更が認められない方向に大きく働く」と明示しています。
養育費を受け取る立場の方へ
共同親権の状態で養育費が払われない場合、単独親権への変更申立ての理由にもなり得ます(法務省Q&A(Q3-18))。
養育費と親権は、切り離して考えられない問題です。
7, まとめ:「あきらめない」ための最初の一歩を
改正法の施行により、養育費を受け取るための手段は確実に広がりました。一方で、制度を正しく理解し、自分のケースに何が使えるかを判断するには、個別の状況を整理する必要があります。
「取り決めはあるのに払ってもらえない」「取り決めすらできていない」「何度求めても無視される」——どの状況にあるかによって、取るべき手段は異なります。
そして改めて強調しておきます。月2万円の法定養育費は出発点であり、ゴールではありません。 子どもの生活を守るためには、双方の実情に即した正式な養育費の取り決めを、できる限り早く行うことが最も重要です。
当サイト「共同親権弁護士」(レンジャー五領田法律事務所)では、養育費の請求・強制執行・改正法の新制度の活用について、個別の状況に応じたご相談をお受けしています。初回相談無料ですので、まずはお気軽にご連絡ください。
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