監護権とは?「引き渡し拒否」(子ども連れ去り)を違法とした東京高裁判決を解説 | 共同親権 弁護士

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監護権とは?「引き渡し拒否」(子ども連れ去り)を違法とした東京高裁判決を解説

2026年7月、離婚後の「子どもの引き渡し」について、社会に静かな波紋を広げる判決が出ました。

虐待が疑われるとして、親権を持つ父親のもとへ子どもを引き渡さなかったことが「監護権の侵害」にあたるとして、東京高等裁判所が、母親側とその代理人弁護士に対して損害賠償を命じたのです。とりわけ、引き渡しを拒んだ本人だけでなく、代理人を務めた弁護士にまで賠償責任が認められた点は、「弁護士に相談すれば安心」と考えていた多くの親にとって、見過ごせない事実です。

「子どもは母親が育てるもの」——長く日本社会に根づいてきたこの前提が、法的にも静かに問い直されはじめています。この判決には、そんな時代の空気が映し出されているようにも見えます。

本記事では、この判決の内容を、どちらか一方の立場に偏ることなく、法的な根拠に基づいて解説します。そのうえで、2026年4月に始まった共同親権制度のもとで、私たち親が本当に大切にすべきことは何かを、あらためて考えます。

目次

1, 監護権侵害とされた判決の概要──何が争われ、どう判断されたのか

まず、報道されている事実関係を整理します。

この裁判は、離婚して1歳の娘の親権者となった父親(元夫)が、「娘を引き渡さないのは監護権の侵害だ」として、元妻と、その代理人を務めた弁護士に損害賠償を求めたものです。父親側は当初、2人に対して合計330万円の賠償を求めていました。

事実関係の経緯は、判決によれば次のとおりです。

2024年5月 元夫と元妻は、娘の親権者を元夫と定めて離婚。

離婚後は、交代で娘を監護していた。
9月24日 元妻は、元夫が娘を深夜まで外出させたことが虐待にあたると弁護士に相談。

弁護士は、警察や児童相談所への相談を提案。
3日後 元妻は元夫への娘の引き渡しを拒んだ
10月1日 弁護士の説得により娘を帰した。

控訴審である東京高等裁判所(市原義孝裁判長)は、2026年7月30日、この引き渡しの拒否が親権者である元夫の監護権の侵害にあたると認定し、元妻と弁護士に対し、慰謝料など計5万5000円(および遅延損害金)の支払いを命じました。朝日新聞は、この判決を 「『子ども連れ去り』の法的リスクを説明せず、弁護士に賠償命じる判決」(2026年7月31日)と報じました。

金額そのものは決して大きくありません。しかし、この判決が注目されたのは、金額ではなく、「誰の、どの行為が、なぜ違法とされたのか」という判断の中身にあります。

なお、この事案は2024年に離婚が成立した単独親権のケースです。離婚後も両親が交代で子どもを育てる中で起きた紛争であるという点で、これからの共同養育の時代に、起こりうる問題を先取りしているといえます。

2, そもそも「親権」「監護権」とは?

判決を理解するために、まず言葉の整理をしておきましょう。混同されやすいのですが、「親権」と「監護権」は同じものではありません。

親権は、未成年の子どもを守り育てるために、親に認められた権利であり義務でもあります。親権は、大きく二つの要素に分けて考えられます。

一つは、子どもの財産を管理し、契約などを代理する権限(財産管理権)。もう一つが、子どもと一緒に暮らし、身の回りの世話や教育、しつけを行う権限です。この後者を指すのが「監護権」(正確には身上監護権)です。

通常は、親権を持つ親が監護もあわせて担います。しかし、事情によっては、親権者と、実際に子どもを育てる監護者を分けて定めることもできます。

親権
財産管理権
身上監護権

今回のケースで重要なのは、親権者である父親が監護権も持っていたという点です。だからこそ、「親権者のもとへ子どもを引き渡さないこと」が、その監護権を侵害する行為として問題になったのです。

親権と監護権は「別々の親に分けることもできる」概念です。共同親権制度のもとでは、親権は父母の双方が持ちつつ、監護(子どもと主に暮らす役割)の分担を別に取り決めることも可能になりました。

3, 「引き渡し拒否」がなぜ違法と判断されたのか

親であっても、相手方に子どもを引き渡さなければ違法になる——そう聞くと、戸惑う方もいるかもしれません。判断の分かれ目はどこにあったのでしょうか。

高裁が着目したのは、「その引き渡し拒否が、子どもを守るための一時的・緊急的な対応だったといえるか」という点でした。

母親側は、「父親が娘を深夜まで外出させたことは虐待にあたる」と主張し、それを理由に引き渡しを拒みました。子を案じる親の行動として、心情的には理解できます。

しかし高裁は、次のように判断しました。

引き渡しを拒否したのは「娘を保護するための一時的なものとは言えない」
深夜の外出などを踏まえても、「元夫の監護が容認できないほど劣悪とは認められない」

つまり、「一時的に子どもを守るための緊急避難」ではなく、継続的に引き渡しを拒む対応だったと判断されたこと、そして父親の監護が、子どもを引き離さなければならないほど劣悪とは認められなかったこと。この二点から、引き渡しの拒否は正当化されず、親権者である父親の監護権を侵害する違法な行為だと結論づけられました。

ここで押さえておきたいのは、この判決は「子を心配する気持ちそのものを否定した」わけではないということです。問題とされたのは、心配の程度に照らし合わせて、とられた対応(継続的な引き渡し拒否)が均衡を欠いていたという点にあります。

同じ「引き渡さない」という行為でも、事情によって法的な評価は正反対になります。その分かれ目を今回の判決から整理すると、次のようになります。

「子どもの引き渡し拒否」の法的評価 —— 判断の分かれ目
東京高裁 令和8年7月30日判決の判断枠組みをもとに整理(実際の評価は個別事情により異なります)
観点 正当と認められる方向 違法と評価されうる方向
子どもの

危険性
身に差し迫った危険が現に認められる 危険といえるだけの実態が乏しい
相手の監護の状態 子を引き離すべきほど劣悪といえる 「容認できないほど劣悪」とまでは認められない
対応の性質 安全確保のための一時的・緊急的な対応 一時的とはいえず、継続的に拒み続ける
とるべき

手続き
DV等の避難+速やかに弁護士・公的機関へ相談 自己判断で引き渡しを拒み、正規の手続きをとらない
法的な評価 子の保護として正当化されうる 親権者の監護権の侵害(不法行為)となりうる

※ DV・虐待から子どもを守るための避難は、改正民法が認める「急迫の事情」として正当な行為です。危険がある場合は自己判断で抱え込まず、必ず専門家にご相談ください。

4, 監護権侵害への賠償責任はなぜ弁護士にも及んだのか

この判決が離婚・親権を扱う弁護士たちの間で強い関心を集めたもう一つの理由は、引き渡しを拒んだ母親本人だけでなく、その代理人を務めた弁護士にも、連帯して賠償責任が認められたことにあります。

高裁は、代理人弁護士について、子どもを引き渡さないことの法的なリスクを、依頼者に適切に説明していなかったと指摘しました。報道によれば、弁護士の対応は警察への相談を提案するにとどまり、専門家の立場として、引き渡しを拒み続けることが違法と評価されうるという明確な説明をしていなかった、とされています。

弁護士は、依頼者の利益のために力を尽くす立場にあります。しかし同時に、依頼者が法的なリスクを負う行動をとろうとするとき、そのリスクを正確に伝え、適切な手続き(家庭裁判所への申立てなど)へと導く責任もあります。この判決は、その専門家としての説明責任を、あらためて明確にしたものと受け止められています。

依頼者の側から見れば、「弁護士がついていれば何をしても守られる」わけではないと不安に思うかもしれません。感情に任せた対応ではなく、法的に正しい道すじで子どもの安全と利益を確保することが、結果的に親自身をも守ることになるのです。

5, 「子どもは母親が育てるもの」という前提の法的な変化

この判決を、「母親が不利になった」「父親が勝った」という勝ち負けの構図で読むのは、本質を見誤らせます。より正確に言えば、「子どもは母親が育てるのが当然だ」という長年の社会通念が、問い直されているということです。この社会通念には、「だから親権や監護をめぐる判断でも、母親の方が有利になって当然だ」という思い込みも含まれています。その思い込みが、法の場では通用しなくなりつつあるのです。

これまで日本では、離婚後の子どもは母親が引き取るケースが大多数を占めてきました。その背景には、実際に母親が主たる養育者であることが多かったという事情があります。

しかし近年は、父親も日常的に育児に関わることが当たり前になり、離婚後も子どもと関わり続けたいと願う父親が増えています。今回のように、父親が親権者となり、日々子どもを養育している家庭も、もはや珍しくありません。

裁判所が見ているのは、「父か母か」という親の属性ではなく、その子どもにとって、どちらの親との関係をどう守ることが利益になるのかという一点です。今回の判決も、「父親だから優先された」わけでも、逆に「母親だから有利になるはず」というわけでもなく、現に親権者として子どもを養育している親の立場が、正当に保護されたと理解するのが適切です。

裏を返せば、この判断の枠組みは、父母のどちらが監護する側であっても等しく当てはまります。今回のケースとは逆に、母親が親権者・監護者であるのに、父親が子どもを引き渡さない、あるいは連れ去って返さない——そうした場合でも、同じ論理で違法と評価されうるということです。守られているのは、母親だから、父親だからという親の権利ではなく、安定した関係の中で育つ子どもの利益そのものなのです。

6, DV・虐待から子どもを守るための避難は別問題

ここは、誤解のないよう、はっきりとお伝えしなければならない点です。

今回の判決は、「どんな場合でも子どもを引き渡さなければ違法になる」と述べたものでは決してありません。

判断の決め手は、あくまで「父親の監護が、子どもを引き離すほど劣悪とは認められなかった」「拒否が一時的な保護とは言えなかった」という、この事案に固有の事実認定でした。事情がまったく異なれば、結論も変わります。

実際、2026年4月に施行された改正民法は、DVや虐待から子どもを守るために親が単独で行動することを、明確に認めています。 子の利益のため「急迫の事情」があるときは、一方の親だけで必要な対応(避難を含む)をとることができるとされ、法務省の解説でも、現に暴力を受けている時やその直後に限らず、加害が現に行われていない間も、急迫の事情が認められる状態は継続しうると説明されています。

つまり、

本当にDVや虐待の危険があるなら、子どもを守るために避難することは正当な行為であり、
法もそれを守ります

問題になるのは、危険といえるだけの実態がないのに、継続的に引き渡しを拒み続けるようなケースです。

「今は暴力がないから逃げられない」といった誤解におびえる必要はありません。大切なのは、危険があるなら、自己判断で抱え込まず、速やかに弁護士や公的機関に相談し、法的に正しい手続きで子どもの安全を確保することです。それが、親自身をも法的リスクから守る、最も確実な道です。

7, 共同親権の時代に、この判決から考えるべきこと

冒頭で述べたとおり、今回の事案は単独親権のケースでした。しかし、そこで争われた「引き渡し」「交代監護」「子を守るための対応」といった論点は、改正民法により離婚後も父母の双方が親権者となる共同親権が選べるようになったこれからの時代に、いっそう身近なものになります。

離婚後も父母の双方が親権者となり、子どもと関わり続ける——それは、子どもにとってかけがえのない「お父さん」「お母さん」との絆を守るための、大切な選択肢です。同時に、両親が関わり続けるからこそ、「誰が・いつ・どのように子どもを育てるか」が曖昧だと、今回のような衝突が起きやすくなるのもまた事実です。

この改正法は、父母に対して互いの人格を尊重し、協力して子を養育する義務を定めました。子どもの面前で相手の親を非難したり、取り決めた親子交流を正当な理由なく守らなかったりすることは、この協力義務に反する行為とされます。今回の判決は、この「協力の精神」を欠いたとき、法的な責任が生じうることを、具体的な形で示したものといえます。

だからこそ、共同親権を選ぶうえで欠かせないのが、あらかじめ「監護の分担」や「重要な事項の決め方」「もめたときの解決方法」を、共同養育計画としてきちんと取り決めておくことです。計画が具体的であればあるほど、感情的な対立が起きたときも「決めたとおりに立ち返る」ことができ、子どもを紛争の板挟みにせずに済みます。

ただし、「共同親権にすれば安心」なのではありません。「子どものために、何をどう決めておくか」こそが、子どもの平穏な毎日を守ります。

8, まとめ:迷ったときは、子どものための「法的な手続き」を専門家と

子どもの引き渡しや監護をめぐる問題は、親にとって最もつらく、最も感情が高ぶる場面です。「子どもを守りたい」という一心での行動が、思わぬ法的リスクにつながってしまうこともあります。

今回の判決が示したのは、苦しいときこそ、自己判断で突き進む前に、法的に正しい道すじをとることが大切だということです。危険があるなら適切な手続きで避難という道が、相手の養育に不安があるなら家庭裁判所の調停や審判という道があります。そして、そもそもそうした衝突を防ぐために、離婚の段階で丁寧に取り決めをしておくこと——そのすべてに、専門家の支えが役立ちます。

当サイト「共同親権弁護士」(レンジャー五領田法律事務所)では、監護や引き渡しをめぐるお悩みはもちろん、紛争を未然に防ぐための共同養育計画づくりまで、お子さまの利益を最優先に、一緒に考えます。当事務所は、不安な状況にあるご依頼者に寄り添いながら、子どもの未来を第一に、正しい手続きを踏みながら現実的で無理のない形を一緒に探っていく伴走支援を大切にしています。

「相手が子どもを返してくれない」「引き渡しを求められているが不安がある」「これから離婚するが、子どもとの関わりを守りたい」——どのような段階でも、まずはお気軽にご相談ください。お子さまの幸せな毎日と未来を設計するために、私たちはお手伝いします。

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